講座&セミナー レポート ・ アピール
1.高知県の地域特性

 高知県の地域特性は高齢化率の高さと、林野面積率の高さで示すことができます。つまり、高知県の高齢化率は24.6%(2002年10月現在:全国平均18.5%)で島根県・秋田県についで第3位であり、林野面積率は83.3%(2000年世界農林業センサス:全国平均65.7%)で全国第1位となっています。このことは、高齢者福祉のあり方にも大きな影響を与えています。

 高度経済成長期の人口流出は激しく、特に、中山間地域の若者流出や挙家離村に歯止めがかかりませんでした。2002年10月現在、高知県53市町村のうち、高齢化率40%以上の自治体が7町村、30〜40%の自治体が27市町村に及びました。高知県の高齢化の状況は全国平均の10年以上先を進んでいる、といわれています。
 また、高齢者のいる世帯は1975年以上増加傾向にあり、2000年国勢調査では、高齢単身世帯が高齢夫婦世帯を上回り、高齢単身世帯と高齢夫婦世帯を合わせると、高齢者のいる世帯の約55%を占めるに至っています。また、女性の社会進出の高さや、離婚率の高さも高知県の社会特徴となっています。つまり、高知県の高齢者世帯では、家族の介護力に期待することができないわけです。

 このようなことから、高知県の高齢者福祉は施設中心に進められてきました。高齢者人口に占める介護保険施設の定員の割合は4.4%であり、国の示す標準的な割合(参酌標準)の32%に比べて高い水準となっています。施設の整備状況を種類別にみると、介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム、以下特養)、介護老人保健施設(以下老健)は、この標準に近い整備状況ですが、介護療養型医療施設は、標準を大きく上回る状況となっています。

 高知県の高齢者にとって、「施設」とは、特養であり、病院でもありました。ところで、特養は高知県下に分布しており、2003年4月現在50ヶ所ありますが、その約半数の運営主体は自治体あるいは組合となっています。待機者が多く、なかなか入所することができない特養も多くなっています。1989年から、退院後の高齢者が自宅での生活に戻るためのリハビリ施設として老人保健施設が新設されるようになりました。しかも、高知県の場合、病院が高知市へ一極集中しているため、中山間地域の高齢者は介護・援助が必要になった時には、住み慣れた地域を離れて、高知市の何らかの施設に入所することが一般的なライフコースになっています。また、家族の介護力に期待できないため、施設から在宅へ戻ることができずに、施設入所の長期化現象がおこっています。このようにして、特養、老健、病院などの「施設」は、高齢者の終の棲家となってきました。


2.新しい取り組み−ユニットケアの導入と戸惑い−

 これまで、すべての施設において、職員は施設入居高齢者の「生活の質の向上」に寄与すべく、さまざまな取り組みを行ってきました。しかし、集団生活を基本とする処遇プログラムを一気に変更することは難しく、また、どのような目標を持って、取り組んでいくべきかの見極めが難しかったのも事実です。「4人部屋」や「6人部屋」でのおむつ交換や、食堂での一斉配食、週に2回の入浴日が、高齢者の「希望」であるかどうかを考える余裕はありませんでした。清拭、食事介助、水分補給といった日常生活からかけ離れた言葉が、施設の中では普通に使われており、それが高齢者や職員にとって「あたりまえ」になっていたことも確かです。そのような中で、やる気のある職員を中心に、高齢者の立場を考えたケアを実践すべく、少しずつ工夫が重ねられてきました。例えば、「4人部屋」や「6人部屋」に間仕切りをしてみたり、言葉遣いの改革を行ったり、家族との連絡を密に取るようにしたりと、それぞれの施設で積極的な取り組みがなされてきました。しかし、抜本的な改革には及びませんでした。

 1996年頃から、高知県の施設でも個室化導入が進められるようになり、「4人部屋」や「6人部屋」を間仕切りでしのぐのではなく、完全個室というハード整備をすることが可能となってきました。施設のあり方を考える転換期として考えられます。

 現在、高知県においても個室化と同時に、ユニットケアに取り組む施設がいくつか出てきています。第3回実行委員会の際に施設見学会を行った高知市にある総合福祉施設「ヘリオス」を事例に、その取り組みをみてみましょう。総合福祉施設「ヘリオス」では、特養「森の里高知」(定員80名)において、集団的・画一的なケアではなく、個々人を尊重した個別ケアを実施しています。このため、居室は全室個室制をとっています。また、施設が閉鎖的な運営に陥ることのないように地域交流ホールや逆デイサービス(以下逆デイ)、そして痴呆性高齢者グループホーム(痴呆対応型共同生活介護、以下グループホーム)を最大限に生かして地域社会との交流を積極的にすすめています。もともと、「ヘリオス」でユニットケアに取り組むきっかけとなったのは、第1回ユニットケア全国セミナーに「ヘリオス」職員が参加しその実践事例を聞いて帰ってきたことによります。ユニットケアの理念に感銘を受け、自分の施設でもできないかと提案し、取り組み始めました。ユニットケアの発想のもとは、宅老所やグループホームなど家庭的な施設で高齢者の問題行動が改善されていることでした。これを教訓に、大規模施設でも入所者を10人程度のユニット(生活単位)に分け、その単位ごとに高齢者に寄り添いながら日常生活を行おうとするものです。ユニットケアを導入し始めたときは、個室では手がかかるのではないかと職員から不安や不満の声が聞かれましたが、5年経った現在では、個室・ユニットケアを導入して良かったと考えられるようになったとのことです。

 しかし、この5年間に多くのほかの施設職員がユニットケアを行っている施設を見学したり、グループホームを見学したり、研修を重ねてきたにも関わらず、「隣の芝は青い」で終わってしまい、自分の施設で取り組んでみようという意識になかなか繋がっていかないことも多いのです。

 一方、精神保健福祉の分野でも「施設」から「在宅」への動きがみられます。高知県は精神病院が多いことに特徴がありますが、新障害者プランを受けて社会復帰施設が作られてきました。病院から地域へ出すことを前提とした施策の中で、施設の小規模化、入所の短期化が図られてきました。また、近年は地域生活支援センターが設立されるに至り、現在高知県内に4ヶ所(うち高知市内3ヶ所)あります。



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